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2022.08.10

アーティスト紹介

対談 諏訪 敦 × GOLDEN  新企画 ゴールデン学生サポーター制度について

ゴールデン学生サポーター制度とは、未来のアートシーンを担う美大・芸大生に募集し、選出された学生にGOLDEN製品を協賛する奨学制度。GOLDEN製品を使用した率直な感想や作品を、任期の1年間を通して自身のSNSで発信していただくという企画。

 

テストケースとなる第一回目は、武蔵野美術大学の諏訪敦先生にご協力を仰ぎ、学内募集の結果、同大学の大森恒太さんと松野有莉さんをご推薦いただきました。まずは、本企画の立案にご助言をいただいた諏訪敦先生にお話を伺いたいと思います。

 

G:当企画は、ゴールデンを学生の皆さんに紹介させて頂きたいと諏訪先生にご相談したところ、それならば絵具に興味がある学生に使わせてみたらよいのではとご提案いただいたことをきっかけに立案させていただきました。諏訪先生のご感覚では、今の学生さんは絵具に対するこだわりやご興味はどのくらいあるものでしょうか。

 

諏訪先生:学生たちの絵具に対する関心は、おしなべて高いと考えていただいていいと思います。だいたいの国内メーカーの画材ならば、品質でも安全面でも高い水準を維持しているので、私たちは不安を感じながら使用することは少ないでしょう。現状でも多様な要求に応えられているし、便利過ぎるといえるのかもしれません。しかし一方で選択肢が多い分迷ってもいる。

たとえば描写的で古典技法に凝るような、マニアックに画材を偏愛する学生たちがいる一方で、アクリルをガンガン使い、大量のドローイングを発想源にした作品を描く者たちも多く存在しています。あるいはもっと仮設性を活かしたインスタレーションなどを作る学生たちにとっては、家庭用塗料のように安価で大量に扱える色の方が適している。もし彼らに稀少な天然顔料だけで練られた絵具を渡したとしても、単に効きの悪い色という感想しか返ってこないでしょう。だからといって絵具に対するこだわりが減退しているわけではないし、それによって作品の優劣がつくものではありません。ただそれぞれが要求するポイントが違うということなのです。

 

G: 諏訪先生がおっしゃるように、最近は画材の種類が多すぎて、その選択に迷われているお客様が大勢います。そうした中で、我々画材流通業者の使命の一つとして、お客様の需要傾向を把握し、求められる画材を的確にご紹介することがあります。実は、このことは本企画の目的の一つでもあるのですが、画材や技法を知ること、興味を持つことについて、諏訪先生から学生さんにお伝えになりたいことがありましたら教えていただきたいのですが。

 

諏訪先生:絵画を語るときに、特に美大生は自作の思想性を先に考えがちです。それも大事なのですが、絵画はそれ以前に木枠や麻布、そして顔料やメディウムといった画材でできた「肉体」をもつものであることは無視できません。材料としての側面から絵画を知ることや、技術は職能として必須であると同時に、多角的な視線で自作を検討することが可能になってきますから、絵画に悩んだときに突破力になることは間違いありません。

 

G:先生ご自身が、第一線でご活躍されているアーティストとなられた現在までのご苦労や、サクセスストーリーについてお話しいただけますでしょうか。

 

諏訪先生:私が大学院を修了して世の中に出たときは、ちょうどバブル経済が崩壊した時期で美術業界も最悪の状況でした。誰も絵なんか買わない。先輩たちから聞かされていた景気の良いエピソードは空想同然でしたし、伝えられた処世術は何の役にも立ちませんでした。私がそのような状況下で初めて美術雑誌に取り上げられた号の特集は、「バブル崩壊後の荒野に咲いた花」といった内容でしたし、悪い冗談のようなデビューでした(笑)。つまり制作の理想以前に、とにかく描き続けていられる自分でいることが関門としてあったのです。社会人としての経験も得たかったので、絵画で食べていける自信がつくまではゼネコンに勤めましたが、人生の最優順位を間違えないようにと思い続けていました。でも思い返せばそもそも景気の良かった業界の空気を知らなかったわけだし、捻出した時間で制作に没頭していたので、苦労とは感じていませんでした。

みなさんに「第一線で活躍」とおっしゃっていただけるなら、現在もその場所に立ち続けていられることの幸運に感謝するべきなのかもしれません。

 

G:今回、ゴールデン学生サポーター制度の立ち上げに際して、テストケースとしての第1回目は、武蔵野美術大学の学生さんから募集し、応募された方の選考を諏訪先生にお願いいたしました。

その際に、ホルベインのスカラシップ奨学制度の概要説明と併せて、「ホルベインの奨学制度と若手アーティストの生存戦略」という特別講座まで設けていただきました。本講座で、諏訪先生が学生の皆さんにお伝えになられたかった事はどのようなことでしょうか。

 

諏訪先生:ほとんどの学生はぼんやりとした願いであるにせよ、アーティストとして成功したいという気持ちで美術系大学を志すわけでしょう。苦労して入学してもさまざまな理由から諦めてしまう人たちを見てきましたが、その理由の大部分はシンプルなものでした。それはアーティストとして生きていく「環境」を整えることができなかったからで、才能が枯渇した人たちばかりではないのです。「環境」の意味するところは、制作空間の確保、生活費の問題、社会状況、あるいは世に出るための関係者との縁であったりするのですが、その中で特に、人との巡り合わせだけは努力などではどうしようもない部分です。私がさっき「幸運」と言った意味はそういうことです。

それならば私が検討すべきことは、後進のためにアート関係者や同世代の実作者たちとの交流が可能になるルートを、できるだけ多く敷設することなのかもしれません。しかもそれは誘導的になり過ぎないものでなければ。このゴールデン学生サポーター制度は画材の援助を主体に設計しましたが、ホルベインの皆さんとはそうした意思が共有出来ていると思います。

ホルベインからのサポートは経済援助というだけではなく、奨学生にとってあの企業から見守られ続けているという意識が大きな支えになる。それは先行するホルベインの奨学制度、「ホルベイン・スカラシップ」の歴代の奨学生たちからよく耳にした話でもありました。

 

G:諏訪先生が今回、大森恒太さんと松野有莉さんをゴールデン学生サポーターとしてご推薦いただいた、その理由について伺いたいのですが。

 

諏訪先生:大森恒太君の絵画は、押し付けがましいメッセージ性などは無いのですが、ちょっと形が緩めでストロークが優しく、小声で話すように静謐な空間性を持っています。そして松野有莉さんは自由なドローイングを元に制作しており、鑑賞者が実際は経験していないはずの「記憶」に触れる、良質なロードムービーのようなイメージが持ち味です。二人ともに共通しているのは、制作に対しては真面目な人たちだなあと感じられることでしょうか。

 

ありがとうございました。次回は、サポーターに選出されたお二人を作品とともにご紹介して、お話を伺いたいと思います。

 

諏訪 敦  すわ・あつし

画家。1967年北海道生まれ。1994年に文化庁派遣芸術家在外研修員としてマドリードに在住。帰国後、舞踏家の大野一雄と大野慶人親子を18年間にわたり取材し、シリーズ作品を制作。これを契機に絵画の原点回帰としての写実表現から、取材プロセスに比重を強めプロジェクト化した制作への展開を見せている。

成山画廊、Kwai Fung Hin Art Galleryなどで発表を続け、2011年、NHK『日曜美術館 記憶に辿りつく絵画~亡き人を描く画家~』での単独特集、2016年には歴史に言及した、ETV特集『忘れられた人々の肖像“画家 諏訪敦 満州難民を描く”』が放送され、ナラティヴなアプローチの徹底性が、一般層にも知られる事となった。

2018年武蔵野美術大学教授に就任。2022年12月17日〜 府中市美術館で展覧会「諏訪敦 眼窩裏の火事」が予定されている。

 

大野一雄 2007  120.0 × 193.9 cm Oil on Canvas

 

Yorishiro 2016-17 86.1×195.8cm Mixed media   Private Collection

 

Takao Kawaguchi Dancing “Tango” (Admiring La Argentina) by Kazuo Ohno   2020〜2022   Mixed media (Collage of sketches)                                                            

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