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2023.10.20

アーティスト紹介

対談 女子美術大学ドローイングセンター × GOLDEN

ゴールデン学生サポーター制度とは、未来のアートシーンを担う美大・芸大生に募集し、選出された学生にGOLDEN製品を協賛する奨学制度。

第二回目は、女子美術大学の大森 悟先生、林 航先生にご協力をいただき、学内募集の結果、安藤瑚夏さんと、浜田優花さんのお二人をサポーターに選出いただきました。

 また今回は、多くの学生の皆様に応募いただきましたが、皆さんそれぞれ甲乙つけがたく、その中でも優れた方たち4名に、女子美術大学ドローイングセンター賞が授与されました。

ご選考いただきました大森 悟先生と林 航先生が、選出された学生の皆さんへのコメントを記載いただいております。こちらのリンク 女子美術大学 Drawing center をご覧ください。

 

Q. 今回、ゴールデン学生サポーターの学内募集においては、貴学のドローイングセンターという施設の主催で実施いただきましたが、当施設はどのような施設なのでしょうか。

林先生:女子美生が授業の合間など、好きな時に来て使える自主制作の場として用意している施設です。定期的に人物クロッキーゼミやホルベインさんをはじめとする外部の企業の方々をお呼びして講座を開講したりしています。

学部学科が異なる学生が集まる場所なので、お互いのドローイングを何気なく見ていく中で、自分と違うところや良さを発見したりする、気付きの場にもなっていると思います。

大森先生:美術大学なので、描く行為は当然日常的にやっているのですが、その行為にはまだまだ可能性があるのではないかと思っています。

例えば、絵画表現以外に、建築とか工芸とかでも何かを描いてイメージを持ったり意思を伝えたりしますが、そこを丁寧に見直すことで、さまざまな分野のなかにもドローイングで意思疎通を図っている方法論や問題解決をしていくようなところが必ず存在しているのではないかと考えています。

学生たちは美術大学で描くことの専門的な技術を習得していくのですが、その専門性を本当の意味で活かすとなると、もしかして違う分野に接続させることが重要なんじゃないかいうことで、『ハイブリットドローイング』という演習を行なっています。幅広い業界の方、職種の方をお呼びして、絵を描くことで生まれる新たなビジョンを実験的に開拓しているというところが特徴なんです。

これまで大学で学んだ専門性、知識というのは、自己表現のために使っていることの方が多かったと思うのですが、これからは他者との意志の疎通や伝達というところで柔軟に活用してくれたらと思います。

このような施設で学生が普段の授業や制作では遠慮してできなかったことや他専攻の学生とも出会う経験をすることで、人と人とのコミュニケーションのなかで絵を使うことを、もっと有意義なものにするために研究したり、楽しむための場でもありますね。

Q. 当企画は、ゴールデンアクリリックスという新しい色材との出会いにより、アーティストを目指す学生の皆さんに、新たな表現の可能性を追求していただきたいということが目的の企画なのですが、そもそも今の学生さんは、色材や画材についてのこだわりやご興味はどのくらいあるものなのでしょうか。

 大森先生:デジタルで何かを見ることや行うことが増えてきていますので、関心が薄まっているところはあるとは思うのですが、美術大学で専門性の高い色材や画材に実際に触れることで、美術予備校や高校の部活で触れてきたものとは違って、やはり新鮮な感覚で色や材料を捉えていて、そこからの急激な関心の持ち方とかアイデアの飛躍はすごく見て取れます。

学部1、2年生くらいだとまだ素材に慣れていない学生もいるので、それほど専門的に技術を使えるわけではないのですが、いくつかの段階と経験を積んで卒業制作とか大学院での制作研究などのタイミングでもう一度素材の価値や意味を問い直すような、発想の切り替えの幅として、むしろ以前より柔軟に色材とか画材に頼って、それを中心とした表現に切り替えてみようとか、そういうことができるようになってきていると思います。

 林先生:先日のゴールデンの色材概論の講座でも、幅広い学部の学生が聴講に来ていて、とても生き生きとしていましたね。

色材や画材に対する興味はきっかけ次第ですね。興味はあったけどいざ踏み込む際に敷居があるというか、それはお金のことかもしれませんし、時間的なことかもしれませんが、いざこうした講座をきっかけに触れてみると、絵具だけでもこうも違うのだと驚いたりして、ゴールデンのクラックルペーストなんかもそうですが、学生のリアクションはすごく良かったですね。

Q. ゴールデン学生サポーターを学内募集していただきましたが、学生さんの反応はいかがでしたでしょうか。

林先生:コンペとかスカラシップとかにどんどん応募していく学生はいるのですが、そうでない学生にとっても、それこそ良いきっかけになったのではないかなと思います。初めて応募する学生たちも選考していていっぱいいましたし、残念ながら落選した学生もいましたが、最初の挑戦に立ち会えたというか、とても若々しいパワーを感じました。

大森先生:キャリアがあって社会的に認められる、その手前にいるときに自分の可能性って、自分自身では不安なところも正直あるので、自分の持っている可能性を肯定してもらえたというところと、もう一つは、アートとかデザインに近しいメーカーさんや企業さんがサポートしてくれるということは、自分の制作活動を続けるべきか躊躇していたところを、後ろから押してくれるような感覚を学生は強く感じているのではないかと思います。むしろ、我々教員のことばよりも強力かもしれません。

林先生:実際に画材の協賛であるので、サポートという面ではリアリティがありますよね。

大森先生:自分たちがやっていることを評価してくれる場面というのは、そんなにたやすくは訪れない、非常に難しいことなので、学外の方々に評価してもらってプッシュしてもらえると非常に勢いづくというか、変わっていくと思います。

Q. 画材や技法を知ること、興味を持つことについて、大森先生、林先生が学生の皆さんにお伝えになりたいこと、感じられたことがありましたら教えていただけますか。

林先生:実は僕、画材オタクなのです(笑)。きっかけは何かなぁと思い返していたら、小学校低学年から高校までずっと書道をやっていて、その先生に言われたショッキングなことは、『弘法は筆を選ぶのです。』といわれて。『弘法にも筆の誤り』ではなくて。ただ高価な筆を使えばいいということではなくて、その人の表現にあった筆を選ぶということを伝えたかったのだと思います。色材や画材も自分の表現に合ったものを選ぶべきだし、たくさんある画材を試していく中で新しいきっかけもありますよね。今回ゴールデンも良い絵具を試させていただいて、パンパステルとかもすごく面白い素材ですし、クロッキーでも学生が実際に使っていて、すごく伸びる!とか、描きやすいみたいで。画材で作品が変わるなというのが学生にも伝わっているので、そうした意味でやりがいも感じているところであります(笑)。

大森先生:今年、ハイブリットドローイング演習という講座をホルベインさんにやっていただいて、直接こういったやり取りができて、学生たちの変化について感じたことがあります。美大生として普段から画材店に行って、例えば沢山ある油絵の画用液を見ていても、それらをカスタマイズして組み合わせて使うことをそれほど積極的にはやっていなかったんじゃないかと思うんですね。

演習に参加するなかで、意外とメーカーさんも開発でどこかに迷いがあるというか、その考え方の幅を少し感じることができました。絶対的な正しさは無いというか、邪道かもしれないけど自分の表現にあった画材や技法をカスタマイズするというか、画材の新しい使い方にチャレンジができるかも、してもいいかも、というような感覚に変わってきたような気がします。

画材に対する一般論や考え方は講座で知識として身についたので、そこを超えたときに何が起こるのかをやってみようと。その時に困ったら、ホルベインさんに聞いてみようという受け皿がしっかりできた気がしています。

時代や歴史や環境のなかで生まれてきた画材や技法は、やがて失われていくものが必ずある。失われていくものをどういうふうに乗り越えていくのか、ということがずっと続いていくと思うのです。そこで新しく生まれてくる画材や技法がオリジナルなものに引きあがるということになると思うのですが、一方で失われたものというのは、そこでストップするのかというとそうではなくて、今の時代でも掘り起こしてみると使える技法や材料がある。新しいものを生み出す進化だけじゃなくて、古いものも新しい時代に持ち込むというか、それも重要だと気付いてほしいですね。絵画を鑑賞することも、新しいものだけではなくて、時代を隔てた古いものに触れる、そのことで実は新しい発見や気付きもある。関心の持ち方や感覚が変われば、自分のなかでの価値観や評価も変わるということに気付ける。その入り口が技法とか画材にはあると思うのです。

Q. アーティストを目指す学生さんに、先生方からアドバイスや注意点をそれぞれお願いしたいのですが。

大森先生:例えば広くサラリーマンですといってもそんな単純かといわれれば、それぞれ全然違う仕事をしているわけじゃないですか。アーティストも本来は幅があると思うのですが、何をもってアーティストとして想像するかというところだと思います。

アーティストという言葉に踊らされないというか、絵を描きつつも会社勤めで事務仕事をしていますとか、そんなアーティスト活動でもいいんじゃないですか。トップなになに、若手注目なになにって、よく耳にするフレーズですよね。それって誰が決めているんですかね。

生活の実態を打ち消すようなキラーワードで、浮世離れした職業と人物像を作り出していますよね。

チャンスが巡ってきた場合、そこは全力で向き合って絵を描き続けるとか、インスタレーションならインスタレーションをし続けるとか、プロ意識を持ってそれだけに専念して過ごすことも非常に有意義だと思いますが、一方で順調には進まない、向き合えない時期も巡ってきてもそういうものだとして受け入れていけばよいと思います。なかなか精神的にも経済的にも大変ですけどね。

大事なのはどんなかたちでも続けること、継続していくことです。そうすることで社会的な信頼や認知度が変わってきます。

僕の学生時代の先生の榎倉康二さんが、社会性というのは、単に社会的なつながりができたということだけじゃなくて、『あなたが何をしているかを周りの人が知っていること』だとおっしゃっていました。認知度と勘違いされやすいのですが、ただ知っているだけではなくて、理解しているひとが増えてくるということです。例えば家族が自分のやっていることを理解している場合は、私はその人は十分、アーティストの活動をやっていると思います。

林先生:そうですね、続けるというのも難しいですけどね。お金は人一倍かかりますし、現実的に考えるととても厳しい世界なので、如何にそっちにコストを割けるかですね。ただ好きなものを作っているだけじゃなくて、色々なところで人脈を作っていかないといけませんし、自分からどんどん発信していかないといけない世界なので、海外での活動も視野に入れると語学も必要ですし、相当マルチなことをやらないといけません。長く続ける分だけ活動もどんどん難しくなっていきますので、やはり大森先生がおっしゃったように身近に理解者がいないと厳しいですね・・・。

大森先生:美術雑誌とかに「アーティストになるには!」というような特集が出た時期があって、林先生がおっしゃったことは結構掲載されていて、みんなそれは知っているのですよ。だけどやっぱり今言ったようなことを全部やろうと思えるかどうか。よっぽど何か、それを超えたところでやりがいというか、モチベーションになるものがないとできないですよね。

いずれにしろ大元になるのは作品だから、作品もそれなりの注目される表現力を持たないといけない。だからまずは、理解者というのは、アーティストの活動を知っているということと共に、作品の魅力や力を信じてくれている人がいるかどうか。そして人として、アーティストとして、作品として、という3つを理解してくれてないと歯車が狂ってくる。

意外と時間が経ってくると、皆にちやほやされるというよりも、細々とでも強い結びつきというのを考え、その関係性というのに憧れる時期がありますね。

最近学生には、アートに関わっていく仕事はどうか。と言うようにしています。もちろんアーティスト含むですけどね。しかし、あまりにも日本のアート系のアーティストになっていくモデルケースが、経歴や容姿、コネクションとそんなに良いとは思えないところを示されることが多いので・・・。アーティスト一択の時代ではないでしょうし、これまでも実際には美大の卒業生たちは想像もできないような千差万別の生き方をしてきているじゃないですか。

海外のアーティストに合うと、人間的にずば抜けて魅力的なのです。憧れますよ、生き方と洗練された知識とことばに。先ほど言ったように、アルバイトをしながらだとか、厳しい活動はしていますけど、苦に見えないし、本当に自然に生活の流れの中に組み込んでいるようなところがありますね。

アーティストを志した場合、それだけで生計を立てていくというか、アーティストという『点』を目指さないといけないと思いがちなのですが、マイペースで、アートに関わっていく生き方もあると思います。

 

2023年9月22日 女子美術大学 ドローイングセンターにてインタビュー

 

 

大森 悟 おおもり・さとる

現代美術作家(絵画、インスタレーション)/ 女子美術大学美術学科洋画専攻教授

 

1969 茨城県常陸大宮市生まれ

1994 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業

1996 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修士課程修了

1999 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了 美術博士号取得

2005 − 現在 女子美術大学美術学科洋画専攻教授

2017 「ブレラ国立美術学院 交流展」(旧聖カルポーフォロ教会 / ミラノ)

2021 「いのちの移ろい展」(碧南市藤井達吉現代美術館 / 愛知)

2021 「far in しんしん と展」(大川市立清力美術館 / 福岡)

『花かげ つき』2020 油彩、キャンバス

 

『静水の際 碧南』2021 ミクストメディア

 

 

林 航 はやし・わたる

美術作家 / 女子美術大学ドローイングセンター助教

 

1982 東京都国立市生まれ
2011 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
2013 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修士課程修了 (修士(美術))
2023 − 現在 女子美術大学ドローイングセンター助教

2020 「佐藤比呂二・林航 二人展 とまれば動き出す-青のイメージ-」(相模原市民ギャラリー / 神奈川)
2021 「女子美術大学 助手展2021」(女子美術大学SWITCH Labo / 神奈川)
2022 「みょうじなまえ 林航二人展 Home sweet home 」(MAKII MASARU FINE ARTS / 東京)

Home sweet home 2022 ミクストメディア

 

クオリア 2021 ミクストメディア

 

 

次回は、選考されたお二人の作品やステイトメントのご紹介をしつつ、お話を伺っていきたいと思います。

 

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