• HOME
  • ブログ
  • 第1回 ゴールデン学生サポーター成果報告 松野 有莉

2023.09.04

アーティスト紹介

第1回 ゴールデン学生サポーター成果報告 松野 有莉

『ゴールデン学生サポーター成果報告レポート』

松野 有莉

 

ホルベインの方達が大学で講座を開催していた時期は、ちょうどソフトパステルを使い始めたばかりの時期だった。それまで色鉛筆やコンテ、水彩絵具を使って制作をしていた私にとって、その発色の良さは革命であった。

しかしパステルとはとにかく課題の多い画材である。ほぼ顔料の塊に近く、のりの役割(アラビアガムや乾性油等)が含まれていないため、画面に定着しにくい。それでまずは下地として使えないかと色々なメディウムの特性を知ろうと思った。

様々な種類のメディウムを試して面白かったものをいくつか紹介していこうと思う。塗布すると色鉛筆やパステルが載せられる「パステルグラウンド」や「ファインパミスジェル」は、上からパステルをのせた時の発色がとても良い。またアクリル絵具で描く時の感覚も面白くて、実家の砂壁を思い出す様な質感だった。

「海まで駆けたら」(2022) 910×727 シーチング ・パステル・パステルグラウンド・フルイド

 

ファインパミスジェルにはさらに粒の粗い「コースパミスジェル」、「エキストラコースパミスジェル」というメディウムも存在し、よりザラザラな画面に仕上がる。絵具をのせると粗さを良い感じに抑えられて独特の質感に変わる。

「Children」(2022) 455×530 シーチング ・パステル・色鉛筆・パシテルグラウンド・シルバーポイントドローインググラウンド・ファインパミスジェル・コースパミスジェル

 

また「ファイバーペースト」という、乾くと手漉き紙の様な質感に変化するメディウムも魅力的だ。部屋の壁紙の様な質感で、かなり水分を持っていかれる様な、筆が画面に引っかかる感覚が癖になる。絵具をのせると凹凸で反射する光が綺麗で、ゴールデンの発色の良さを再認識する程だ。

「ファイバーペースト」の地塗りにフルイド・ハイフローで描写した画面の部分

 

「サンセベリアの鉢」(2022) 530×652 パネル・ファイバーペースト・フルイド・ハイフロー

 

アクリル絵具に関しては、それまで「フルイド」を使用していたが、ゴールデン学生サポーターの任期中に、「オープン」というシリーズの絵具が日本でも発売されることになった。従来の商品に比べて遅乾性で、全体的に透明度の高いアクリル絵具である。乾燥を気にせずゆっくり描けることやヘビボディとフルイドの間くらいの柔らかさが気に入ってよく使っていた。

「もみじ谷を抜けて」(2023) 530×455 キャンバス・オープンアクリリックス・フルイド・レギュラージェルマット・クリアレベリングジェルマット・クリアタールジェル

 

そして最も使用したのが「パンパステル」。パンパステルは、超微粒子の高級顔料粒子に、薄いオイルの被膜のコーティングを施したパステルで、「soft(ソフト)」という専用のスポンジを使いファンデーションの様に画面に擦り付けて使う。スポンジにはペインティングナイフの様な形状から、丸型で幅広く面に載せることのできる形状のものまで10種類以上ある。オープンが発売されるのと近い時期に、パンパステルもゴールデンのラインナップに加わったと聞いて、私はとても嬉しかった。前からずっと気になっていたが、なかなか手を出せずにいたからである。

私は普段、画用紙ではなくシーチング と呼ばれる布地を支持体に制作をしているが、そもそもシーチング はアパレルにおいては仮縫い用に使われる様な安価で薄い生地である。制作段階で身体性を重視する私にとってどうしてもシーチング の質感が必要なのだが、パンパステルの布に直接刷り込んでいけて、かつ布の上を滑る様な感覚は非常に相性が良かった。

通常のパステルをのせた時はぼかしの作業が必要だが、パンパステルは最初から隙間を埋めてくれるので効率も良く、通常のパステルに比べて素早く面に色を置く事ができる。それまで刷毛やガーゼでぼかしていたものを(パステル部分も)スポンジでぼかす様にすると毛羽立ちが少なかった。それで気がついたのだが、刷毛やガーゼでぼかす癖が無闇矢鱈にシーチング を毛羽立たせ、パステルが定着しにくい画面を作っている原因になっていた。通常のパステルに比べると薄付きなので、書き出しには特に重宝した。何よりそれまでの作品に比べて表現の幅が格段に広がった。今では制作に欠かせない画材となっている。

「Take a walk」(2023) 1190×750 パネルにシーチング ・パンパステル・パステル

 

結果から言うと、自分の制作にゴールデンのメディウムを取り入れる事はなかった。だがそれまでの実験や試作が、自分の制作をより豊かにしてくれた事は間違いない。絵具に苦手意識のある私にとって、サポーターの機会が無ければパステルや色鉛筆といった画材にしか興味を示さず制作を続けていただろう。またホルベインの方達にはゴールデンに限らず様々な画材に対するアドバイスや、パステルの定着に関する相談にも親身に乗っていただきとても心強かった。

 

自分で可能性を狭める事なく、様々なものに目を向けて制作する様になった事が、ゴールデン学生サポーターを通して最も得られた学びだった様に思う。課題の多くて、まだまだ悩まされる事の多いパステルだが、私はそれすら面白くて使い続けているのかもしれない。

 

松野 有莉 Yuri Matsuno

twitter

instagram

2018年 武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科 油絵専攻 入学

2021年 同学 油絵学科2年 合同進級制作展 丸山直文賞

2022年 個展「鼻歌」 ギャラリーSpace Sprout(下北沢)

2022年 Idemitsu Art Award 2022 入選

2023年 アートギャラリーホーム 入選
2023年 グループ展「Raising Piggy with ketchup」 Room_412
2023年 個展「Take a walk」 PATH ARTS

ブログランキングに参加しました。
以下のバナーをクリックで応援よろしくお願い致します。

にほんブログ村 美術ブログへ
にほんブログ村