• HOME
  • ブログ
  • Golden アーティスト インタビュー Vol.1 フランシス 真悟

2022.03.22

アーティスト紹介

Golden アーティスト インタビュー Vol.1 フランシス 真悟

画面空間に広がる正方形や円。作品を真横に貫くまっすぐな線。そこに、深い精神性を感じさせる「色彩」や、見る角度によって色が変化する「インタフェレンスカラー(干渉色)」を用いて描く抽象作品で知られている。その作品には、仏教や哲学を通して見つめ続けた、生きる意味に対する深い思いが込められていた。

Space (violet-orange)
Oil and acrylic on linen
57.5” x 89.4” / 146 x 227cm
2014

 

“Subtle Impression (violet, blue and emerald)”
Oil on canvas
40 x 34” / 100 x 86cm
2019

Photo: Keizo Kioku

 

“Crown of Blue”
Oil on canvas
21×21” / 53 x 53cm
2021

Photo: Keizo Kioku                           

                                                                                                                                          

Q:アーティストになろうとしたきっかけのお話から伺いたいのですが、あるインタビュー記事に、真悟さんが最初に強く興味を持ったのは「美術」ではなく、「言葉」であったとのことが書かれていました。このあたりからお話を伺えればと思います。 

生まれてから12歳まで日本で育って、中学からアメリカのカリフォルニア州サンタモニカにある父親のところで生活することになりました。日本にいるときはガンダムとか漫画雑誌のジャンプとかをみていたのですが、アメリカでは興味のあるアニメがなくて。ストーリーが善と悪に分かれたヒーローものだったりと単純で面白くない。日本のアニメはもう少しストーリーが複雑で面白かった(笑)。そんな中、父親は本が好きで、自宅にはたくさんの詩集や哲学書があって図書館のようになっていた。それを読み始めたんです。日本からアメリカに来て、生活環境が大きく変わって不安定な時期でもあって、多感な年ごろの僕にはそれらの詩集が心に響いたんですね。毎日日記を書きながら詩を書いたりして過ごしていました。そのまま文学系の進路に進み、入学した大学でクリエイティブライティングを専攻したのですが、文章を表現する過程でいろいろな制約があることがわかり、好きだったはずの「言葉」の表現に不自由さを感じて行き詰っていた。そんな中、選択授業の一つに絵画制作の授業があって、見る人の感じ方ひとつでいろいろな解釈ができる、視覚表現の自由さの魅力に気づき、比較的すぐに「美術」の方へ進路を変更しました。

Q:私が見たことのある真悟さんの作品は、一貫して抽象作品。実際に拝見させていただいた感想は、静寂さの中に何か寡黙な力強さを感じさせる、日本的な価値観をもとに表現された作品である印象を得るのですが。お若い時に禅寺で座禅のご経験がおありとのことですが、そうしたことが関係しているのでしょうか?

アメリカにいると、日本にいるよりも日本の文化が魅力的に見えるというか。そのころアメリカではヒッピーの文化が盛んで、自分自身を見つめなおすことでスピリチュアルな体験ができる、禅の思想など、日本の仏教が注目されていていました。そうした中で自分も自然と仏教に興味をもち始めて、夏休みは日本に帰っていたのですが、その時に家族のつてで、禅寺で座禅を組む体験をしました。仏教に興味を持ち、人生とは何なのかということを考えていて、西洋だと苦しみを避けることで救われようとするのですが、仏教では苦しみは逃れがたいものとして、恐れず受け入れるという思想があります。それと、ある本を読んで、フランスの哲学者の本なのですが、ここには、人は変化を通して自分自身が変わって、自分自身が進化する、ということが書かれていました。ポケモンのように進化して強くなる。息子が今ポケモン大好きなんです(笑)。
日本に来るまでは「炎」を題材にして作品を制作していました。「炎」は物を変えていく力がある。苦しみとか変化というものを「炎」を題材に考え続けていた時期がありました。そうしたことが作品に表れているのかもしれません。

Q:色に対するこだわりの話を伺いたいと思うのですが。2000年頃の初期の作品にみられる青、そして少しずつ赤や黄色が使われて、そして最近ではインタフェレンスカラー(干渉色:光の入射角度によって下地を覆い隠す色)が使われていますね。

2000年に日本に来て、神社やお寺に行ったり、新しい建築を見たりして、ああ、日本の空間の使い方って独特だなあと感じていました。例えば、日本家屋の障子のように、時とともに形を変える光と影があって、そこに美しい空間が生まれる。変化は受け止めるべきもの。受け止めるのは自分自身、そこには内面的な空間があり、それは何なのか、と考えたときに、このシンプルな空間表現の構図と「ブルー」という色に行き着いたんですね。色は、初めは「青」に絞って、まずは空間を表す構図にこだわって、構図がもっとしっかりしてきてから、それから色を意識していこうと思いました。それから少しずつ、色の力とか、そこに現れる色の魅力とか、色のコンビネーションとかを、もっとコンプレックスに作風をつくり始めて。最初は少しずつ、青という色調から出てくる紫とか、赤とかオレンジとか黄色とか、いろんな色が出てきました。出てきた色に合わせて構図も変え始めて、空間の取り方や、線の色が変わって、今はインタフェレンスをのせて描いています。色の変化が絵の表面に出てくるように。レアリングを見せるという。そこはコントロールできるところもあればできないところもあるので、偶然性も取り入れていく。インタフェレンスカラーについては、2015年に大学院に戻り、外部から若いキュレーターが来てセッションしたとき、キュレーションを、会いに行ける距離のアーティストでさえ、実際に作品を見ずにインスタグラムを見て行うと聞いて、それは違うんじゃないかなあと思って、そこで今度彼たちが来るときに、写真で撮れない絵を描いてやろうと思って、インタフェレンスカラーのみを使った作品を描くきっかけになったんです。

Violetblue
Oil on canvas
40” x 30” / 100cm x 80cm
2012

“Into Space (turquoise)”
Acrylic on linen
56”x108” / 142cm x 274cm
2013

 

Infinite Space (red)
Oil on linen
76” x 51”/ 194 x 130cm
2015

 

Infinite Space (orange-yellow)
Oil on linen
76” x 64” / 194 x 162
2015

 

 

Infinite Space (blue-magenta)
Oil on linen
94 x 82”/ 239 x 208cm
2018

 

 

 

Q:構図について伺いたいのですが、画面の中央を通る線や、円について伺いたいのですが。

「線」は、人の内面と外面を表していて、わしたちの五感で体験する世界が外の世界やそこで起きていること、内面の世界は思いとか、感情とかを意味していて、私たちは常にそこを行き来している。線はそこの内面と外面、その二つのデュワリティ(二元性)の境界線なんですね。「円」は自然の循環とかいろんな意味合いがあって。人生の円というか、私たちの人生の中に起きているサイクルとか。宗教、シンボリズムとか。でも、やっぱり自分が言いたいのは、「Anthropocene(人新世)」。恐竜の時代ってありますよね、「Anthropocene」は簡単に言えば人類の時代のこと。人類が自然に与える影響は大きくて、コロナもその一つ。自然は向こうにある何かではなくて、私たちは自然にものすごい影響を与えていて、それが私たちに跳ね返ってきているということと、やはり自分たちは自然の一部であるということを意識することは重要なんじゃないかなあと。そう言った意味合いを込めての「円」なんです。

Q:GOLDEN製品は、GOLDEN創業者のサム・ゴールデン氏が、アーティストの方たちと共同で開発してきた製品なのですが、実はGOLDENのフルイドは、お父様のサム・フランシス(アメリカ抽象表現主義の画家)さんのご要望から製品化されました。およそ10年前、真悟さんの横浜のアトリエで、GOLDENとHOLBEINの絵具を拝見した記憶があり、とてもご縁を感じています。真悟さんがGOLDENやHOLBEINをお使いいただいているきっかけというか、理由をお話しいただけますか?

父は高濃度の液状絵具が制作に必要と感じていて、ダン・シトロンさんというアーティスト仲間に絵具を手作りでつくってもらっていました。GOLDENもアーティストの特注品を製造していたので、ニューヨークから父のアトリエまできて要望を聞いて、父の必要とする絵具をつくっていたようです。大量に使う色はGOLDENにお願いしていたので、アトリエにはGOLDENのボトルがたくさん積んであったのを覚えています。GOLDENを使い始めたきっかけは、やはりアメリカで評判が良くて。大きな画材店で一番広く売場を取っている(笑)。ちょっと値段が高いということもあるんですけど、クオリティが高いので、アーティストの中でアクリル使うならGOLDENがいいよ、という仲間内の評判ですね。あと、メディウムだけ考えてもGOLDENはいろんなのがあるので、やりたいことに関してフレキシブルなんですね。僕は「フルイド」がだいぶ好きだったので、ガッシュとか水彩で描くようなのをキャンバスで描きたかったので、微妙な透明感とか、水で動かすときとか、フルイドはとても役立っていて、当時は「フルイド」はGOLDENしか作ってなかった。それと、GOLDENは実験的な会社なので、いろんな新製品が出るので、あ、これ試してみようとか。アーティストは実験することが重要なんですよね。それで発見があって、自分をプッシュできるところを見つけられるというか、GOLDENはそうした可能性を引き出してくれる。まあ、面白いですよね、HOLBEINもクロマシャインとか新しいもの出しますよね。GOLDENもHOLBEINも、いろんなレンジがあって、チャレンジできるアイテムがあるということですよね。

Q:横浜市の創造界隈拠点である、ZAIM、黄金町、BankARTなどの活動について、真悟さんは積極的に様々なアーティストの方たちと交流を持ちながらご自身の作品を発表されてきたと思うのですが、アーティストとして、このような積極的な活動を続けられる意義についてお話しいただきたいのと、これからアーティストを目指そうとしている若い方たちへのご助言などはありますでしょうか?

横のつながりが大事ですよね。アーティストのコミュニティをつくることが重要ですね。横浜も当時ZAIMがあったりとか、BankARTとか、黄金町とか、アーティストが集まれる場所というか、制作や発表の場所があったんですね。当時の横浜を見るとすごい活発だったんですよ。お互いのスタジオに行ったり、アーティスト仲間に作品を見せてどう思われるかとか、何気ない会話の中に出てくるんですねフィードバックが。お互いに影響しあうというか。いろんなアートのムーブメントを見ていると、交流の中から出てくることがほとんどなんですよ。自分だけで制作していて、人間関係をつくらないと、先々行き詰ってくると思うんですね。

若い人たちに伝えることがあれば、「Don’t wait for chances」

ギャラリーや展覧会に誘われるのを待ってないで、自分でキュレーションしたり、自分でそういったコミュニティの中で、仲間たちと発表の機会をプロデュースするなど、良いチャンスになると思う。そうしていると周りも注目するし、その時にしかできないこともあるし、同じように若いキュレーターと出会ってキュレーションしてもらったりとか。展覧会の文章を書いてもらったりなど。そうした出会いは楽しいですよね。アーティストは作品をつくるだけではなくて、実際はいろんな職業の帽子をかぶることをしないといけない。キュレーションとか、作品を配達したりとか(笑)
いろんな帽子をかぶることがアーティストの面白みですね。

Q:真悟さんにとってのアート(表現活動)とは、アートが担う役割とはどういったものでしょうか。

毎日の生活から一歩違う要素というか、違うものを感じさせる、体験をさせてくれるもの。その場になかったものを気づかせるとか、刺激するとか、違う空気が入ってくるとか。あと、今の時代を照らしてくれているということ。アートを見ていると、今の世の中が見える。アーティスト自身も気づかない要素が作品に出てくる、アートが自分の中にあるものを感じさせてくれる力があると思う。そう言った意味で豊かになる。自分が体験している経験を何かの形で表現していきたい。体験に命を与えるというか、形をあげていくことで、なにか、自分が生きている感じがします。運動しないと体が縮んでいく気がしますが、制作していると体が循環して、生きていられるというか、そういった単純なところもあると思います。

フランシス真悟

http://www.shingofrancis.com/

1969年 カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。2017年 ArtCenter College of Design (カリフォルニア州パサデナ) 美術学修士課程修了。
ロサンゼルスと鎌倉を拠点に活動。絵画における空間の広がりや精神性を探求し続けている。

DIC川村記念美術館 [千葉] (2012)、ダースト財団ロビーギャラリー [ニューヨーク] (2013)、市原湖畔美術館 [千葉] (2017)、セゾン現代美術館 [軽井沢] (2018)、マーティン美術館 [テキサス] (2019) など国内外の多数の個展、グループ展に参加。SICF4 スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル南條史生賞 (森美術館副館長) 受賞 (2003)。JPモルガン・チェース・アートコレクション、スペイン銀行、フレデリック・R・ワイズマン美術財団、森アーツセンター、セゾン現代美術館、桶田コレクション、東京アメリカンクラブなどに収蔵。

 

ブログランキングに参加しました。
以下のバナーをクリックで応援よろしくお願い致します。

にほんブログ村 美術ブログへ
にほんブログ村