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2022.09.26

Golden アーティストインタビュー Vol.2 ヨザン 弥江子

室内の装飾を手掛けるデコラティブペインターの第一人者として、20年以上にわたり、店舗やコーヒーショップ、ホテル、大型テーマパークなど、日本を代表する商業施設の空間を彩ってきたヨザン弥江子さん。自らの立ち位置を、アーティストと職人の間にあるという。自然の風合いが感じられる漆喰などの壁面の質感に注目が集まったり、ファッションブランドの旗艦店などでレベルの高いペイント作品を目にする機会が増えて、人々の室内空間に対する価値観や美意識の選択肢は多様化してきている。ヨザンさんはアーティスティックな提案で、そうしたインテリアの豊かさに貢献してきた一人であり、日本でなじみやすい「デザインペイント」という名称で、この分野を発展させてきた。ヨザンさんの生き方や感性に迫りたい。

 

ヨザンさんは「デザインペイント」というまだ知られていない分野を発表するため、築55年のビルのワンフロア70坪に、3年にわたり展示をおこなった。壁面に合うように鳥の壁画を描き、既存の塩ビタイルの床には芝生のトロンプルイユ(騙し絵)を施した。会場提供・協力:下田通称株式会社

 

展示会場より。古い床タイルのトロンプルイユは、型紙と筆をつかって表現。1枚の塩ビタイルに4枚のイスラム風の古いタイルを描いている。

 

デザインペイントではあらゆる技法と色を組み合わせ、空間デザインに合う表現を探る。クライアントやデザイナーのコンセプトを聞き、サンプルやイメージ素材を提示して、プレゼンテーションを行う。

 

 

Q:ヨザンさんが手がけられているデザインペイントとはどのようなアートなのでしょうか?

例えば、大型テーマパークの建物にみられる窓やドア、よく見ると本物ではなくて、木目までもがモルタルの上に描かれた絵だと気づいたことはありませんか。バチカン宮殿などでも扉の向こうに見える部屋が実は絵だったりします。目の錯覚を起こすようなトロンプルイユという騙し絵の技法をつかい、3次元的に見せているのです。ヨーロッパでは昔からこのような技法が多くあり、室内外に装飾的な塗装「デコラティブペイント」を施す文化が定着しています。イタリアの普通のアパートメントの入り口にもトロンプルイユがあったり、大理石模様があったりするんです。

40年ほど前にアメリカから来た大型テーマパークができたとき、まだ日本ではデコラティブペイントという分野はなく、海外から有名なペインターとそのチームが来て指導をし、ゼネコンや装飾会社、映画・舞台の美術スタッフや、美大生などが作業に参加しました。けれど、その後しばらくは、デコラティブペインターとして自立するほどの仕事は、日本にはありませんでした。

 ペイントを使えば、空間がもっともっとデザイン的にアーティスティックになっていくと思っていましたが、そうした変化はすぐには起きなかったのです。ところが90年代に大型商業施設やテーマパークが増えて、デコラティブペイントの分野も徐々に成長してきました。壁紙などのプロダクトとちがって、インテリア空間に合わせて施すアートは空間を彩るオーダーメード。唯一無二のオリジナルなんです。

 この世界をもっと広めようとしたときに、デコラティブペイントという言葉は少しイメージしづらいかもしれないと思い、「デザインペイント」という名称で仕事をしていくことにしました。もちろん、どなたに使っていただいてもかまいません(笑)。

 

 

 

Q:デザインペイントを手掛けられたきっかけをお話しいただけますか。

私は、女子美術大学(以下、女子美)の産業デザイン科工芸専攻で「染織」を勉強しました。いまでも染織の技法は自分の仕事のなかに組み込んでいます。当時からインテリアや空間が好きだったので、卒業後はACTUS(アクタス)という家具会社に入社して3年勤めました。シンガポールのショールームで卸業者向けのコーディネーターや買い付けなどをしていました。

 ショールームではビジュアルマーチャンダイジングの仕事もしていて、この分野の知識をもっと深めるためにアメリカのルイジアナ州立大学に、その後にはロサンゼルスのFIDMに留学しました。

 アメリカの文化から学んだのは、やりたいことをやることでした。私にとってはそれがアートだったので、インテリアや空間、アートにかかわる今の仕事に行き着きました。帰国後、1991年に同業の室内装飾の先駆けの会社に入社して3年基礎を学び、それから独立して個人で仕事を始めました。その5年後に会社組織にして23年ですから、キャリアとしては30年になりますね。

 独立当初は、以前のお客さま3人から声をかけていただき、そのお仕事を一生懸命やりました。仕事をしている現場で名刺交換した人から次の仕事を頼まれ、というふうにつながり、会社にしたころはほんとに忙しかったです。

 この仕事は一人ではできません。空間のコンセプトがないとデザインペイントは始まらないので、クライアント、設計者とのコラボレーションが大事です。また大きな面積の仕事をやるためには、一緒に制作してくれる息の合った仲間たちが必要です。そこが一人で制作するアーティストと少し違うところかもしれませんね。

 

ドトールコーヒーショップとKOITTO TERRACEの壁に小岩駅周辺の地図の壁画を制作。現在の様子と未来予想図をオーバーラップさせ、コーヒーの実や花、鳥、緑などの自然を取り込んで描いた。2021年度日本ディスプレー産業賞入賞。

 

小岩駅周辺地図壁画の部分。オレンジのラインは、アクリル絵の具の透明さを活かし、いずれ駅前にできる新しい道を表している。

 

特徴的な筆類。ウォーキングの時に見つけたカラスの羽も筆として使用。デザインペイントには、あらゆるものが道具となり、材料となる。GOLDENアクリリックスフルイドは欠かせないものの一つだ。

 

鳥の羽や天然海綿などで大理石ペイントを描いているところ。

 

デザイン時に水彩でラフ案を何枚も描く。愛用しているのはGOLDENのQoR水彩絵の具。

 

QoRのにじみの面白さからは、いろんなインスピレーションを得ている。

 

壁紙やキャンバスに描いたものを国内外に送り現場で張り込みをすることもある。これは香港のスターバックスコーヒーのための作品の制作風景。

 

Q:ヨザンさんはこれまで、大型テーマパーク、レストランやカフェ、アパレルなどの商業施設、結婚式場、ホテル、オフィスまで、空間装飾を広く手掛けられてきましたが、日本でのデザインペイントの需要についてどうお考えですか?

 

 

この仕事は素晴らしい仕事だと思っています。世の中の時代の流れ、流行、テイストの変化を活かすので、つねに新しいものをつくらなければならない。時代が流れていくと、表現方法や材料も変えていきます。表現としてのペイントはまだまだ新しく、可能性は広いです。需要はとても増えていて、会社も増えていると思います。

 

日本人も海外に行くようになり、1990年ぐらいから日本と外国のスタイルや表現方法の垣根がなくなっていきました。アメリカの新しいショッピングモールに視察に行ったりして、クライアントや設計者も影響をうけました。2000年前後に海外ブランドもいっぱい日本に入ってきていますから、それも火をつけたと思います。日本でもテーマ性の強い商業施設、テーマパーク、フードテーマパークなどがつくられるようになりました。いまは海外からペインターを呼ばなくても、日本でやれる人がいる時代です。

 

商業施設で流行ったことは、少し遅れて住宅でも普及していくと思います。住宅でもエイジング塗装(アンティーク調に見せる塗装)したりする家も、少しずつ出てきています。先日も、日本在住のフランス人の方から暖炉のまわりに使い込んだようなエイジング塗装をしてほしいというオーダーがありました。もっと住宅に使われるようになったとき、日本にデザインペイントが定着したと言えるのではないかと思っています。

 

GOLDENアクリリックスヘビーボディーの、ゴールドとパールの「マイカ フレーク」を使った色出し見本。各プロジェクトでは大量のサンプル見本を作成し、空間デザイナーと検証しながら進める。

 

GOLDENアクリリックスのさまざまなメディウムをテストし、透明感などを把握していく。

 

GOLDENアクリリックスフルイドのイリデッセントブロンズをよく使用する。水に滲むと緑色が分離し美しい表情を出す。

 

Q:美術を志す学生に、こうした仕事があることをもっと伝えたり指導したりすると、やりたい人はたくさんいると思います。美大、芸大で具体的に職業としてのアートを教える学科があってもいい気がするのですが。

ほんとうに、そうですね。アメリカのGOLDEN社の本部で営業をしていたパメラさんもずっと同じことを言っていました。アメリカでも同じ状況なのですね。デザインペイントの技法を身に付ければ、みんなもっと絵がうまく描けるようになる。大勢でいっぺんに制作できるようにもなるので、大きな作品を仕上げることができるようになります。良い技法がたくさんあるのに、教えている学校がないのは、もったいないと思います。

 今、私が非常勤講師として教えている女子美では、2010年に芸術学部アート・デザイン表現学科ヒーリング表現領域ができました。その中に私の壁画表現の授業があって、デザインペイント技法の基礎を教え、病院での壁画の共同制作を指導しています。ホスピタリティのあるアートを学生たちが考え、コンペでプレゼンテーションして病院に選んでもらいます。ここ数年は順天堂大学練馬病院などにご協力をいただいていて、たとえば小児科病棟では、子どもたちが車椅子やベッドで検査に運ばれるときに見えるように、視線に合わせたアートを描きました。

 環境のためのアートは、これからやることはたくさんあると思います。ほかの大学でもそういうことを教えているとは思うのですけど、まだ世にあまり出ていないように感じています。私も、もっと若い人を育てようと思っていて、今も、一緒に仕事ができるバイタリティのある仲間を募集しているところです。

 私自身は「サロン」と呼ばれるデコラティブペインターのマスターたちの集まりで刺激をもらっています。これは推薦を受けて選ばれたペインターが、毎年各国もちまわりで行うワークショップと発表会です。2013年には私もホストとして、「サロン東京」を開催しました。このサロンはGOLDEN社がメインスポンサーを務めています。会長のマーク・ゴールデン会長と懇意になって以来、GOLDENのものづくりの精神と製品、社風に惹かれて、それ以来ファンになりました。

 

女子美での制作風景。このヒーリングアートを順天堂大学練馬病院のエレベーターホールに納めた。 写真提供/女子美術大学

 

箔トロンプルイユはヨザンさんの作品の大切な手法。このヨザンさんオリジナルの型紙はイギリスのStencil Library社で販売されている。海外でのワークショップでは、主にこの技法を教える。GOLDENのヘビーボディーとフルイドを使用し、濃淡で深みを出し味わいを表現する。

 

サロンで展示した作品。上部は金箔のトロンプルイユ、下は波。

 

2022年5月ノルウェーで開催されたデコラティブペインターのためのインターナショナルサロン。欧米22カ国、200名のペインターが在籍。四半世紀続くプロフェッショナルの集まりだ。GOLDEN社のマーク・ゴールデン会長もよく訪れる。

 

 

Q:ヨザンさんにとってのアート(表現活動)とは、またアートが担う役割とはどういったものでしょうか。

私たちが依頼されるデザインペイントは「コミッションワーク」といい、クライアントや設計者のコンセプトや、その空間の特徴に合わせ、またとりまく環境のことも考えて、アートをつくるわけです。つまりその空間に必要なものを探し出してつくるのが私たちの役割だと思っています。

 アートは、つくったあともずっと働いてくれるんです。空間の目的や個性を、その場を訪れた人に感覚で体感してもらうことができる。そして、人の気持ちを穏やかにしたり、はなやかにしたり、楽しくさせたりと、アートがあればポジティブになれる。アートは何かの役に立つ必要があると思います。仕事させていただいた東京・小岩のドトールコーヒーショップでは、お客さまがそのアートの前に座ると、元気になるとおっしゃってくださるそうです。また仕事先の尊敬する設計者の方から、その空間の文脈にあわないアートだと落ち着かない空間になるから、「大事な仕事です」と言ってもらいました。

 個人的な話ですが、2006年に大きな病気をして、それ以来プラントベースの食生活を続けています。知識としてビーガンのことを勉強したり、食の問題のことを考えるようになりました。だんだん動物の種差別や環境問題についても関心が向いてきます。そうすると見えてくるものが変わってきました。具体的なかたちで表に出せなくても、できるだけ作品の中に平和や環境へのメッセージを入れられればと思っています。

 また、昨年から海藻について学んでいて、海に潜り撮影したり観察したり、海の博物館の海藻の先生の研究室にボランティアで通い資料の整理や研究標本をつくるお手伝いさせてもらったりしています。海藻だけでなく海洋生物の美しさ、不思議さにはいつも驚かされるばかり。私の作品の世界にどういう影響を与えてくれるのか、ぜひ楽しみにしていてください。

 

 

スターバックスコーヒー六本木ヒルズ メトロハット/ハリウッドプラザ店にあるTEAの専門店TEAVANA(ティバーナ)のアートを制作。手仕事の価値を大切にしたインテリアデザインとアートコンセプトが共鳴し合うようデザインペイントのハンギングアートを壁面に施した。写真提供:スターバックス コーヒー ジャパン

 

さまざまな素材を組み合わせ、その空間にあったアートを制作する。アトリエでのスターバックス リザーブ® ロースタリー 東京(東京・中目黒)のエントランスのためのアートワーク制作風景。左手はワイヤーを加工して編んで造形したもの。右手は和紙を3種類使い特殊な折型をつけ、GOLDENのファインゴールドとファインブロンズをスパッタリングして表情を加えている。

 

スターバックスコーヒー皇居外苑 和田倉噴水公園店のアートワークの制作風景。廃棄される予定の漁網を引き取って、複数の編み方でハンギングをつくった。

 

スターバックス コーヒー ジャパンの本社オフィス、サポートセンター内。コスタリカの農園をイメージし、山並みを描いている。デザインペイントの多くの技法を用いて、同社の持つ「人や文化や生活の多様性」を表そうと考えた。

 

ヨザンさんが潜りにいく、千葉県勝浦。冬の海に揺れる海藻。

 

 

 

ヨザン弥江子 Yaeko Yozan

 

株式会社フォーアーツデザイン 代表取締役/アートディレクター

女子美術大学 芸術学部アート・デザイン表現学科 ヒーリング表現領域 非常勤講師

 1992年より、商環境でのデザインペイントを専門とした活動を始め、現在は壁画、アート、トロンプルイユ、ギルティング(箔によるアート)、また立体オブジェなど、コミッションアート制作のチームを率いる。素材や手法にこだわらず、クライアントのブランドコンセプトに寄り添ったかたちでの作品制作が特徴である。大学講師としては、アートが環境や社会にできることを模索し、ホスピタルアートを実践するなど、アート、デザインの未開発な分野に携わっており、これからの期待が高まっている。実用的なアートの広がりを通じ、技術や感性を共有する国内外の多くの専門家と、ネットワークを多く持つ。

 女子美術大学 産業デザイン科工芸専攻 卒業/1986

FIDM ロサンジェルス校 スペースデザイン専攻 卒業/1991

 International Salon for Decorative Painters 会員/2007〜

日本空間デザイン協会 会員/2012〜

Society of Gilders 会員(USA)/2019〜

 

フォーアーツデザイン

東京都江戸川区東小岩1丁目3−23

03-5668-7369

 

 

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